1168人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
あの事件の日は、朝から菜摘と喧嘩していた。
たまたま父も母も出張で不在、だから親の代わりになれるようにと、兄の菜摘が気を張っていたのだろう。とっても些細なことが喧嘩に発展した。
菜摘が用意してくれたご飯には手を付けず、そのままシンクに捨てたら菜摘が泣き出して……逃げるように家を出たのだ。
でも助けに来てくれたのは菜摘だった。
学校にも来ないし、家にも帰っても弟の姿がない。
まさか何かあったのでは、と血相変えて家を飛び出したそうだ。
19時過ぎ、もう日が沈み藍色に染められた街に……ふらふらになりながら人目を避けて路地を歩く或斗を、菜摘はすぐにみつけてくれたのだった。
それ以来、菜摘は或斗と共に登下校するようになった。
だからあれから、路地裏の近道は使用していない。あの廃墟にも近づいていない。
あの事件で傷を負ったのは或斗だけではなく……菜摘もまた、或斗を一人にしたことを悔やみ、心の傷を癒せないでいるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!