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「よかよ。……じゃ、お兄ちゃん、名前はなんというと?」
「誰がお前なんかに教えるもんか!」
「素直にしてくれれば、或斗くん助けてあげちゃるばい」
菜摘は、少しだけ考えて……或斗を見つめた。
(助けてくれる? ほんとうに?)
半信半疑であるが、意地をはってる場合じゃない。今は弟が第一優先だ。
そう判断して、それから消えそうなくらい小さな声で「なつみ……」と答えた。
「なつみくん、ね。あいらしー名前やね」
「或斗のこと、本当に……助けてくれる……?」
菜摘の問いに、アサヒは無言でくすっと笑んだ。
答えの意味が分からなくて、ただ上を見上げてアサヒを目で追うと……アサヒはこちらにゆっくり近づいてきたのだ。
「やっ、やだっ、或斗に近づかないで!」
「大丈夫、信用してよかよ。或斗くんにもう酷いことはせんばい」
そう言ってアサヒは、頭を両手で押さえている或斗をふわりと抱く。なにをする気なんだ、と焦った菜摘があわあわとしているのを、アサヒ視線が向けられ……
シーー、と人差し指を自身の唇に当て、黙ってみていろ、と無言の命令を菜摘に指したのだった。
「或斗くん、聞こえとぉ? こっちに戻っといで」
ぽん、ぽん、ぽん、と或斗の背をゆっくり叩きながら、アサヒが声をかけている。
菜摘は、ただそれを心配そうに見つめることしかできなくて、拳を胸の前でぎゅっと握って弟の無事を祈った。
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