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他人を傷つけておいて、なんでこんなに普通にしていられるのか、そちらの方が疑問だった。
だけど、朝比はニコニコと表情を崩さない。
むしろ斜め上の提案を、悪びれもなくぽーんっと菜摘に投げつけてくる。
「んじゃ、ちゃんと責任とって、コマンドの事とか色々教えちゃる。安心してよかよ、授業料は無料たい」
「だ・め・で・す!!!」
間髪入れずに菜摘がお断りをいれて、頭を撫でられて気持ちよさそうにしていた或斗を朝比から引きはがした。
「あっ」と少し残念そうな声を出した或斗にも、若干の苛立ちを覚えながら立ち上がる。
「ほら、もう帰るよ、或斗」
「え……あ、うん……」
手荷物を持って、反対側で或斗の手を繋ぐ。
朝比はつまらなそうにふたりを見つめて、それから残念そうにため息を吐いた。
「いいですか? 絶対に! 或斗に! 近づかないでくださいね!」
「はいはい、分かっとぉ分かっとぉ。気を付けて帰りんしゃい」
牙を剥き出したまま、今にも噛みついてきそうな菜摘を適当にあしらって、朝比は懲りずに或斗へ近づいた。
そして、大きな手がその頭をふわふわと撫でて、目尻の涙の痕を親指でこすりながら……
「またね、或斗くん」
と、キツネ目を優しく微笑ました。
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