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コマンド講座
「みーつーやーさん!」
ひょこ、っと物陰から姿を覗かせて、或斗は朝比の名前を呼んだ。
朝比はニコっと笑って(元々細目であるが)、訪ねてきた子どもに向かって両手を広げた。
「或斗、Come!」
その大きく広げられた腕の中めがけて、或斗はタタッと駆け出す。
ぼふんっ、と顔を胸に埋めながら、ぎゅうっと抱き着いて温もりを感じると、自然と頬が綻んだ。
*
ふたりが急接近したのは、先日の公園での出来事から数日後のこと。
登下校は菜摘と一緒なのだが、唯一、或斗がひとりになる時間があった。
それは毎週金曜日の放課後である。この時間は、菜摘が生徒会活動に参加しているため、或斗はひとりで下校する。
「よりみちしないで帰るんだよ、気を付けてね!」と言われたにも関わらず、菜摘との約束を破った或斗の足は、あの路地裏へと向かっていて……あの出来事から3日ほどで朝比と再会した。
「会いに来てくれると思っとったばい」そう言う嬉しそうな朝比の言葉に、或斗は朝比に求められているということを実感し、ふわふわと心が浮ついていく。
それからというものの、或斗は、菜摘に内緒で朝比と会うようになっていき……小動物を愛でるような優しさ、とろけるような甘い言葉、たっぷりと甘やかしてくれるその居心地の良さに、どんどん心を奪われていった。
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