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だけど、そんな時……或斗の脳内を横切ったのは、優しい朝比の微笑みだった。
お仕置に耐えた或斗を、とろっとろに甘やかして、たくさん褒めて、頭をなでて、抱きしめてくれる。
あの幸せなぬくもりを、手放すなんて考えられなかった。
「ごめん、菜摘……」
震える手で拳を握り、動きの鈍い首を横に動かした。
「え?」と驚いた菜摘の顔を見上げて、或斗は小さく深呼吸し、渡された2枚の紙を菜摘の胸に突き返す。
「Subの本能が満たされるなら、相手が誰でもいいってワケじゃないんだ。俺は……朝比さんがいい。だから、菜摘とはそういう関係になれないや」
菜摘は、自分の兄でいて欲しい。一線を越えた関係になりたくない、と。
そう強く思って、勇気を出して菜摘の『誘い』を断った。
だけど、或斗のそのセリフに、菜摘の目が大きく見開かれて……
――パンッ
と破裂したような音が響き、菜摘の平手が或斗の頬を弾き飛ばしていた。
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