ダイナミクスとグレア

5/8
前へ
/166ページ
次へ
 ……Glare(グレア).  それはDom特有の殺気のような、圧力のオーラのようなもの。  グレアはDomが睨むことによって放たれるのだが、或斗がアサヒを睨んだ際にそのチカラは感じられなかった。  つまり『Domではない』という結論に達するというのがアサヒの見解らしい。 「残るはSubかNormalか。ま、この世界の半分はNormalらしーけん。或斗くんはどうやろね?」  髪の毛を掴んでいた手が離された。  上半身は再び、床にドサッと転がって「うっ……」と声が漏れる。  アサヒが他のメンバーに顎でなにやら合図を出すと、或斗を拘束していた縄が外された。  もう、抵抗する気力も、動く力も残っていなかった或斗は、自分の真上から垂れる真っ直ぐな赤髪をぼんやりと見つめていた。  アサヒの顔をぼうっと見て、その綺麗な輪郭や、細い薄茶色の瞳に、魅入った。無性に惹きつけられるその顔に、好感をも持ってしまう程だった。 「或斗くん」  そんな綺麗な顔が、スーッとした細い唇が、或斗の名前を呼ぶ。  ただ、それだけなのに。  心臓の奥がグツグツとしてきて、今まで感じたことのないゾワゾワとした感情が或斗を襲った。全身が小刻みに震え始めて、それは、恐怖からくる震えだと思った。  だけど、その考えは一瞬で否定された。 「Kneel(おすわり)」  アサヒの二言目。  その低音に、或斗は心臓を突かれるような、胸が苦しくなるような感覚に襲われ……訳の分からないうちに上半身を起こし、アサヒの前に『おすわり』をしてみせたのだった。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1172人が本棚に入れています
本棚に追加