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ダイナミクスとグレア
「嫌だ! 離せってば!」
抵抗も許されないまま廃ビルの中に連れて来られ、少年は男たちによって両手を背後でぐるぐると拘束されてしまっていた。
廃墟の薄暗い部屋に、ドサッと投げ込まれて、冷たい床に身体を打ち付ける。
「ったく、ちょこまかと。手こずらせんなよなぁ」
「でもまぁ、リーダーが好きそうな子っスね」
「馬鹿言え、ただの中坊じゃねぇか」
ぎゃははと男達の笑い声が耳に障った。
こんなことになるなら、朝ご飯食べておけばよかった……と、今朝シンクに捨てた朝ご飯の事を思い出して後悔する。
一体何があったのか、それは数十分前にさかのぼる。
いつも通りに登校するはずだったのに、たまたまいつもは通らない道を『近道』として利用しようとしたら……
運悪く、ガラの悪い連中のたまり場に足を踏み入れてしまったようで。
何をやっていたのかはわからないけど、その瞬間「見られたぞ!」「ガキだ、追え!」という怒鳴り声が聞こえて、恐怖の鬼ごっこが始まったのだった。
体力の自信はあるのに、大人相手には敵わない。
命からがらに逃げる、とはこういう状況を言うのだろう。
結局、最後は少年が転び、地面に伏せたところを男達が慣れた手つきで捕らえ、縛り上げ……近くの廃ビルへと運ばれてしまったのだった。
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