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あれは、開け放された窓から吹く風が少女の髪を揺らした放課後のこと。教室はオレンジ色だった。 初回の面談を終えて教室に戻ると見慣れない女子が俺の机で眠っていた。艶っぽい髪も伏せられた睫毛も長くて真っ黒。おまけに鼻も高くて肌も綺麗だった。 面談の前に机から荷物取り出しておけばよかった。残念ながらこの厄介な女子を起こさずして帰れない状況だ。 「あのー、すいません……」 無反応。スゥスゥ小さく寝息を立てて眠ったまま。まじか。 「…お、おーい」 触っていいものなのか分からないまま少し腕を揺すりつつ耳元で声をかける。 その時。彼女はゆっくり体を起こしながら細い手を伸ばし俺の首筋に触れて、甘えるように知らない名を呟いて、その柔らかい唇を硬直する俺の口に押し当てた。 「かえでぇ……」 澄んだ声が耳に残る。春のまだ冷たい風が喉元を這った。 この瞬間に何が起こったのか俺にはわからなかった。冷たい指先は首筋を力弱く撫で、何度か重ねられた唇は柔らかく、得体の知れない少女からは微かに甘く花の香りが感じられた。ぼんやりと気持ちよくなって目を閉じる。小さな舌が上唇に当たった時、ハッとして彼女から離れた。ガタンッと大きく音を鳴らして机が傾いた。 「えっ、うそ」 彼女は目を丸くして慌てて口に手を当てた。 「ご、ごめんなさい!勘違い……して…」 「あっいや、俺も…ごめん!」 俺も彼女のキスに応じてしまった自分に気が付き、頭に血が上って顔が真っ赤になるのがわかった。 「いやいや私が寝ぼけてて!ほんとにごめんなさい!……ってもうこんな時間!やっば、行かなきゃ!あ、もしかしてここの席の人?」 「え、あ、は…」 「あぁ!そうか!ごめんね、でもよく眠れた!ありがとう、あと本当にごめんなさい!」 少女はバタバタと慌てて走って教室をあとにした。 開けっ放しの窓から吹いた風の温度は熱くなった頭には十分じゃなかった。誰もいなくなった俺の席に雑に座る。 去った少女の穏やかな寝顔と甘えた声音、重ねられた柔らかい唇の感触。知らない女子の一瞬の勘違いに頭をいっぱいにされた。 「かえでって誰……ってかあの子誰だよ…」
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