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私の名前は
「貴方の能力?」
「はい。私の能力です」
まだ、俄かには信じていないようなクリスの問いに、娘は静かに答えた。
「私の能力は、この世界、全ての言語理解能力です。人が書いた文字や話す言葉だけではありません。動物や魔物の声も聞こえます。その証拠に……」
娘は顔を上げると、クリスをじっと見つめた。そうして、柔らかく微笑む。
「私は毎夜、貴方のーークリスさんの鳴く声を聞いていました。クリスさんが悲しむ声や嘆きの声、そうして、時折、嬉しそうに歌う声を。だから、私は貴方の存在を知っていました」
「そう、だったのか……」
クリスは益々驚いた。クリスはコハクが聞いていないところで、人の言葉以外で、嘆き、悲しみの声を上げていた。
ーー時折、コハクと過ごす、細やかな日々を歌う事もあった。
何もわからない人が聞いたら、ドラゴンが遠吠えしているだけにしか聞こえないだろうと、そう思って。
クリスは恥ずかしくなって、長い前髪で顔を隠したのだった。
「はい! だから、私はクリスさんの事が最初から怖くなかったです。姿を見た時は、驚いてしまいましたし、食べられると思ってしまいましたが」
先程は、すみません。と謝る娘を、クリスは驚きと嬉しさが、半々に入り混じったような瞳で見つめたのだった。
「ようやく、クリスさんと会えて嬉しいです。勿論、コハクちゃんとも出会えて!」
「ああ、私もだ。そうだ、そろそろ、貴方の名前を教えてくれないか? さすがに、名前を呼ばないのも失礼かと」
あーっと、娘はクリスから視線を逸らす。ややあってから、娘はクリスを横目で見ながらお願いをしたのだった。
「私も、名前をつけて欲しいなって、思うんですが。駄目ですかね?」
「名前を? それは構わないが。貴方はいいのか? 貴方にだって、名前があるだろう。村の人間からも呼ばれている名前が」
クリスが不思議そうに首を傾げた。娘は、「それは」と、口籠もりつつも答えたのだった。
「この世界では変わった名前なのと、この世界に召喚された時に、私を召喚した国が大々的に宣伝をしてしまったので、名乗ると異世界から召喚された人間だとバレてしまうと思うと、名乗れなくて……」
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