私の名前は

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「そ、そうなのか……」 「はい。なので、クリスさんに名前をつけて頂きたくて……」 「名前か……」 しばし、クリスは悩んでいるようだった。クリスの前髪から拭ききれていなかった雫が、クリスの頬を伝って顎まで落ちていった。 娘は髪を拭く手を止めていたクリスからタオルを受け取ると、クリスの背後に回って、まだ湿った白色の髪を拭いた。 クリスは始めこそは身構えていたが、次第に肩の力を緩めると、娘のやりたいままにしていた。 「アメリアは、どうだろうか?」 やがて、娘の名前を考えていたクリスは、そう呟いたのだった。 「アメリアですか?」 「ああ、知っているか? 貴方がいた国だけではなく、各国の至るところで、異世界から召喚された異世界人の話が残っているんだ」 振り向いたクリスに、娘は首を振った。そんな話は、聞いた事がなかったからだった。 「アメリアは、私が住んでいた国ーー私が人間だった頃、騎士として仕えていた国で、最初に召喚された異世界人の名前だとされている」 「まあ、そうなんですか?」 弾んだ声を出した娘を、クリスは微笑ましく思いつつ、話を続けた。 「そして、私の国ではその名前を持つ女性は幸せになるとも」 「えっ……」 娘はタオルを取り落としそうになった。慌てて掴み直すと、首を強く振る。 「そ、そんな名前を私に……?」
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