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仇討ち娘と人斬り浪人『突撃』
雪を抱き抱えて長屋の屋根を屋根を雄蔵は走る。
闇夜に支配されているかというと中野泰宗の館に津上屋の用心棒たちが襲いかかった場面を一目見ようと町民たちは松明を手に現場へと向かう。
雄蔵にとっては好都合。ちらりと抱き抱えた雪の顔に目をやるとやはり怯えているようだった。
どれ程気丈であろうと十になったばかりの子供だ。
雄蔵は雪の身体を更に強く抱いた。
「雄蔵、痛い……」
雪の訴えに雄蔵の頬は一時緩む。
「離さねぇよ。だからちょっと我慢しな」
雄蔵は走る足を速める。
中野泰宗の屋敷に雪がいないと知られては少しばかり面倒になる。
屋根を走る術というのは佐竹広臣が抱えた忍びの頭に教わった術。それが活かせる日が来るとは雄蔵自体も思わなかったが、雪のためならば出し惜しみをする気はない。
人々が中野泰宗の屋敷へと向かう逆方向に走っていくと人の波は途切れ容易く津上屋の本家へと辿り着いた。
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