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人生において、それを左右する転機というものは、必ずしも一度きりとは言えないものだ。
僕はその転機を何度となく経験して、今ここに立っている。
目の前に広がるのは、目も眩むような雲一つない青空と、全てを見通せそうな地平線。
そして、手に持っているのは、少しの荷物とカメラだけだ。
澄んだ空気を肺に一杯吸い込み、数年前までスーツを着こなし、都会を歩き回っていた頃の自分をふと思い出す。
自分にもそれなりに夢はあった、ただ、それを実現するには、都会では厳し過ぎたのだ。
だから都会の喧騒に、遣る瀬ない現実に流されて生きていた、あの頃……。
生きていたというより、息をしていた、という表現の方がより近いかも知れない。
よくある話だと、そう自分に言い聞かせて日々を怠惰に送っていた。
そんな僕に第一の転機が訪れたのは、とある夏の暑い日の事だった。
その日外回りをしていた僕は、夏の日差しがあまりに容赦なく照らすものだから、少しだけと銘打って、とある建物へと滑り込んだ。
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