第一章・―運命の一枚―

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 中へ入った途端感じる冷気と、喧騒を一切遮断するような厳かな雰囲気に、一瞬だけ躊躇して足を止めてしまう。  だが、改めて見ると、どうやら何かの催しものをしているようで、受け付けで手渡されたパンフレットに目を通す。    開催されているのは写真展のようで、そこにはにこやかに写っているフォトグラファと、写真に関する解説が書かれていた。    入場料は無料と書かれていたし、折角入り込んだのだし、ついでに見て行こうという、実に軽い気持ちでの行為だった。  写真を見て行くと、その小さな空間には色とりどりの景色や、様々な人が浮かべる、極上の笑顔が一瞬にして切り取られていた。    何気ない日常が、一人のフォトグラファによって切り取られ、見事に表現されている。  見る枚数が増えるごとに圧倒されていったが、最後に劇的な衝撃を受けたのは、今でも脳裏に焼き付いている、シンプルに動物の一瞬を切り取った写真だった。    撮られているのはゴリラなのだろう。  モティーフは上半身のアップだけだが、こちらを見るその瞳にただただ圧倒された。
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