第一章・―運命の一枚―

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 見る者に何かを語りかけるような、それでいて憂いを帯びた、全てを否定するかのような視線。  シンプルであるからこそ、逆に精神にがつんとくるような、そんな迫力を伴っている。  それから仕事も忘れ、数時間立ち尽くした後、その足で会社へ戻り、僕は迷わず上司に辞表を提出した――。  会社も辞め、住んでいたマンションも解約し、全ての柵から解放された僕は、貯金を元手に買ったカメラを片手に清々しい気分で日本を離れた。  元々出張や旅行で海外にはよく行っていた僕は、たった一つのカメラだけを頼りに、ひたすら撮り続けた。  それは風景写真だったり、人々の日常だったり、あのフォトグラファを真似て、動物の一瞬も切り取っていく。  一瞬ですら同じ風景を留めない大草原や、カメラを向けると構えてしまう人達、思う通りには動いてくれない動物達を写真におさめるのは、素人の僕にとって至難の業だった。  何とか良い場面を撮りたい、輝いている人達を目に焼き付けたい、彼らはこんな風に生きているんだ。  それを表現するには、ただただ忍耐でもって対峙するしかない。
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