第二章・―恩返し―

4/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 薄暗い現像室で、特殊な溶液に浸した写真が魅せてくれたものは、まさに身震いするような感覚だった。  自分が撮った筈なのに、ファインダー越しに移り込む、穏やかな表情を浮かべている僕が、そこには確かに立っていた。    他にも現像した写真は次々と、実に様々な顔を僕に魅せてくれた。  あのフォトグラファが開いていた、写真展会場に飾ってあったフォトグラフィ、それらには到底及ばないのだが、僕が撮った写真達にも、素晴らしいものを感じたのだ。    言葉にする事の出来ない感動、嬉しさのあまり写真を持つ手は震え、いつの間にかぽつぽつと涙が零れ落ちる――。    感動のあまり無意識の内に泣いてしまった事にようやく気が付き、慌てて涙を拭うと気持ちを落ち着かせるために深呼吸する。    取り敢えず、震える手で持っていた写真を、一旦傍の机に置いて立ち上がると、背後にある本棚から大切に保管していた、とある小冊子を取り出す。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!