伊月くんからのお返し

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伊月くんからのお返し

どんな顔をして伊月と会えばいいのか。この休日の間ずっと考えていた。 考え続けたら熱が出た。出たのはいいが、週明けにはすっかり熱が引いてしまったので休めない。 とぼとぼと頼りない足取りで昇降口を上がり、ホームルームギリギリで教室に向かう。まだ遠いのに、自分のクラスから男子の盛り上がる声が聞こえてきていた。後ろのドアから教室を覗き見ると、奏の席の前、つまり伊月の席の周りは男子の輪ができていた。 ぽつんと入り口に突っ立っているとチャイムが鳴って、皆蜘蛛の子を散らすように席に戻っていった。 伊月が後ろの席を気にして振り返った。彼の目の端に、入り口に突っ立っている奏の姿が留まった。 二人の目が合った。 お互いに口を開け、真っ赤になった。 暑かったのは今日の気温のせいだけではない。 「おーい、席につけ~」 間延びした無精髭の言葉にハッとして、奏は急いで席に座る。心なしか伊月の背中から彼の緊張を感じた。細く筋肉の締まった、でもまだ「男性」にはなりきれていない体が、カッターシャツ越しにやけに色っぽく見えた。
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