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ホームルームが終わった瞬間、意を決したように伊月が振り返る。いつもは先生から渡されるノートを、今日は伊月本人の手から受け取った。
「ノート、ありがとう」
「あ、うん」
ノート越しだとたくさん話したはずなのに、直接会うとなかなか言葉が出てこない。短い沈黙は、息が詰まるほど長い。
「あのさ。俺……」
奏が顔を上げると、伊月は真っ赤な顔をしていた。強い瞳で、真っ直ぐに見つめてくる。
「バスケ、頑張る。仲間も信じる」
決意の言葉。奏はなぜか泣きたくなった。同時に誇らしい気持ちが沸き上がり、じんわりと笑顔になる。伊月は、人差し指で照れ臭そうに鼻を擦りながら笑った。
「あの絵、俺もらったから。部屋に飾ってる」
「うそ、下手なのに」
「めちゃ嬉しかった」
白い歯を見せてはにかんだ伊月。普段から彼が笑う顔は見ているのに、それはなぜか特別な意味を含んでいるように見えた。奏がキュンと痛んだ胸を押さえると、次に見せた顔はいつもの飄々とした笑顔だった。
「お礼したいんだけど、何がいい?」
「いいよ、そんなの。私もお陰で勉強分かるようになったし」
「あっ、そうだな。もうすぐ期末か。俺の実力を発揮するチャンス、早速到来だな」
ようやく本来の調子を取り戻した彼は、力こぶを作る身振りをした。奏はほっとしながら頷いた。
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