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担任の話によると、伊月は足を骨折したらしい。退院まで一ヶ月。男子は特に彼が来ないことに不満を表した。話は骨折の原因の予想へと流れる。
ルパンの真似して屋根から屋根飛び移ってて落ちたんじゃね?
重量挙げ選手の真似してバーベル落とした瞬間足に当たったんだよ。
いや、猫に足踏まれたのかも。
滅茶苦茶なことで笑われる。
伊月はそういうタイプの少年だった。
騒ぎ立つ男子たちを「うるさいぞ」と担任の野太い一声が諌めた。
「それでな、誰かノート取ってやってほしいんだけど」
彼は教室をぐるりと見回し、奏の所で視線が止まる。
「あ、立川。お前にお願いするわ」
「えっ」
奏は驚いて思わず声を上げた。クラス中の視線が一気に集まって、身をすくめて小さくなった。
「立川のノートきれいだから」
そう言われると断れない。まあ、どう言われても彼女の性格上断れなかった。伊月と対角線上にいるような性格の奏。ひっそりと隅っこで生きていたいタイプだ。名指しで指名され石のようになってしまった彼女を、担任は気にかけるようすもない。
「1日のノート、書き終わったら職員室に持ってきてくれ。じゃあ、ホームルームはここまで」
同時に鳴るチャイム。自分に集中していた目が離れ、湿気をまとった空気が騒めきと共に撹拌される。奏は重たい息をこぼした。
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