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「……っ…、好きっ……」
その言葉が、やけに耳にまとわりつく。
重なった華奢な身体がさらに激しく動きを増すから、私は思わず顔と口を覆う。
そうしたら片手首を掴まれて、ほおを赤らめた彼の顔がこちらを覗いた。
「…綺麗だよ」
体力の消費からとは違う、もっと別の、しかし妙に大きな黒い波がどくんと音を立てる。
もう二度目か三度目かの行為に、身体は怠く頭は重く、私は咄嗟に違う名前を呼んでしまいそうになる。
しかし醜い私は、そんなヘマはしない。代わりに思いっきり彼の名前を叫んでやった。
私の中でとぐろ巻いている感情を知りもせず、彼は微笑んで、ただただ気持ち良さに身を委ねていく。
彼は、私を知っているようで知らないのだ。
そしてそれは、紫にも言える事なのだろう。
私がいかに醜く、嘘つきで、酷い奴であるか。
まだ、何があるのか知りもしないで、恋に溺れ、笑顔を信じ、快楽を求め、愛を捧ぐ。
最も、「知っているようで知らない」という状況を作り出したのは私であるが。
本当の私を知ってしまえば、二人とも離れていくだろう。
どこまで私の事なんかを「好き」だと言っていられるのか。
どこまで耐える事ができ、その行為を許す事ができるのか。
私が信じる事ができるたった一人の親友のような人間が他にいて、私を愛してくれるか。
絶対的な愛と永遠、ついでにその未来を信じさせてくれるか。
14歳くらいから、だろうか。
こんな御伽噺のような、他人に嘲笑われる願いを熱望しながら、自分を切りつけるようになったのは。
大好きな友達を失った悲しみを感じられない事に、涙を流した最低なあの日から。
こんな私なんかを愛してくれる人を、こんな歪んだやり方で、試すような楽しむような不細工な笑顔で、悲劇を繰り返すようになったのは。
しかし現実、本当の私を曝け出せば「頭がおかしい」だの「変わってる」だの、軽蔑されるのが常だ。
だから今回も期待はしていない。
本当の私を見せつけたような形のバッドエンドが、また待っているのだろう。
期待なんてしていないのに、それでも恋愛を続けるのはどうしてか。
本当の私は、どうしようもなく諦めが悪く、こんな歪んだやり方の中に求めるほど、愛に飢えているのだろうか。
だけど、本当は、きっと、たぶん、
本当の私は、私にも分かってないのだ。
…と思う。
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