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「そうだ。それだ。どこまで行ってもお前はお前でしかいられない。死んだ者の想いなど無理に背負おうとするな。自由でよいのだ。いつでも身は軽くしておけ、桔梗傘の。心の自由がお前を強くする」
総次郎の眼から悲愴感が消えている。代わりに力強い生気が宿っていた。
「俺は牧総次郎だ」
「都筑秀綱だ」
「黒疾風の生活でわからない事があれば何でも聞くがいい、秀綱」
「ああ、そうさせてもらおう。宜しく頼む、総次郎」
童のように邪気のない表情で総次郎が笑った。忠勝は総次郎と出会ってからもう7年ほど経つが、こういう顔は初めて見たという気がした。
総次郎はまた強くなる。確信を持って忠勝はそう思った。
賑やかな声が屯所に近づいてくる。近所の小川で馬を洗い終えた黒疾風の面々が戻ってくるところだった。
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