《53》

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 横山城武器庫の前に何台もの太平車が並んだ。山積されているものは全て鉄砲である。 火縄銃の他に口径がやや大きめの大鉄砲も混じっている。大鉄砲は城攻めの時などに使う鉄砲だと隣で半兵衛が教えてくれた。 「鉄砲がいくさ場の主役になる日なんざくるのかのう」 秀吉は手で庇を作り、日差しを避けながら言った。 「どうでございましょうかねえ」 半兵衛が言う。暑い季節であるのに半兵衛の顔は豆腐のように白い。 「今の鉄砲は昔の物より軽くなり、扱いやすくなっています。命中の精度も上がっています」 「しかしなぁ」 言って、秀吉は大量の鉄砲が武器庫に入れられてゆく作業を眺めた。 改良が加えられ、扱いが易くなったとはいえ、弾込めに刻が掛かり過ぎるという難点は変わっていない。一発放った後、続けて撃つ事ができないのだ。野戦で鉄砲を用いれば、弾込めをしている隙に、敵に討たれる。 やはり、鉄砲は威嚇や奇襲の際にしか遣えぬ品物、というのが秀吉の見解だった。  それでも、信長は堺で大量の鉄砲を仕入れては各領地に配している。 元来、新しいものが好きな男だ。鉄砲の異常収集も信長の中に住む虫が動いているのだと秀吉は考えていた。 「わしも摂津に赴き、戦いたいのう」 嘘だった。秀吉はそんな事、微塵も思っていないが、なんとなく雄々しいことを言いたくなり呟いた。 「秀吉殿の役目は、この横山城で浅井長政を抑えこむ事です」 「うむ、半兵衛。わかっておる」  今、信長は摂津で三好三人衆と戦っている。阿波で、なりを潜めていた三好三人衆が畿内に侵攻してきたのだ。 更には紀伊の傭兵部隊、雑賀衆も三好三人衆に呼応し、出馬してきた。ここに浅井長政が参入せぬよう小谷城を牽制するのが秀吉の役目だった。
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