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夜叉若が、敵が刺さったままの槍を振り回す。たちまち、夜叉若と市松を乗せた馬が敵兵の槍で突き潰された。
秀吉隊が夜叉若と市松の回りに殺到した。乱戦になった。
秀吉は何度も守り兵の輪から飛び出し、自ら槍を振った。
秀吉の槍は誰にも当たらなかった。夜叉若の槍。刺さっている敵が3人になっている。この場にいる誰よりも体が大きいので徒立ちになった夜叉若はよく目立った。
相当に重いだろうが、夜叉若は槍を振り回す事を止めない。とんでもない膂力だった。
ほどなくして、敵が退いていった。秀吉は地に尻をついて肩で息をした。
腕がぱんぱんに張っていた。いくさ場でこんなに槍を振ったのは初めてかもしれなかった。
大きな影と小さな影が秀吉を包んだ。市松と夜叉若が傍に立っていた。
「見てくれ親父殿。俺の戦果じゃ」
夜叉若が得意げに笑い、敵の屍体が突き刺さったままの槍を秀吉の顔の傍に突き出してきた。
隣で市松も嬉しそうに笑っている。返り血なのかどこか怪我をしたのかはわからないが、二人の顔は血で真っ赤に汚れていた。
秀吉は立ち上がった。
「この、大馬鹿が」
言って、秀吉は夜叉若の尻を蹴った。
「痛てえ」
秀吉は悲鳴をあげて、蹴った足を掴んで跳び跳ねた。夜叉若の尻は岩のように硬かった。
足の痛みで秀吉の眼から涙が零れた。夜叉若は不思議そうな表情で秀吉を見つめている。
ふいに、半兵衛が市松と夜叉若に近づいた。
半兵衛は逆手に持った槍の石突きで市松と夜叉若の腹を順番に打った。
呻き声を発し、市松と夜叉若が膝を折った。
「何をしてくれるのだ、お前たち」
半兵衛が市松と夜叉若を見下ろして言う。半兵衛の声はぞっとするほど冷たかった。
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