309人が本棚に入れています
本棚に追加
/296ページ
兵舎から、梶原忠が飛び出してきた。
「武田の忍に襲われたと聞きました」
梶原がすぐ傍まで来て、眼を剥いた。
「お怪我などは」
「大丈夫だ」
忠勝は梶原の肩をひとつ叩いて言った。
「それより、梶原、国境の警備を更に厳重にしろ。女子供、年寄りに至るまで徹底的に調べあげてから入国させるようにしろ。俺たちの油断が武田の忍を領内に入れてしまったのだ」
「は」
梶原が直立し、表情を引き締めた。
「戦時のつもりで徹底的にやります」
確か、今日、国境の屯所には中根忠実と牧総次郎が入っている筈だ。
梶原は兵舎に入り、兵卒を1人走らせた。
「兄貴殿」
再び兵舎から出てきた梶原が言った。
「今後、ご家族は」
「一旦、岡崎に帰そうと思う」
梶原が唇を噛んだ。
「小松殿は今が一番成長する時です。それを見れぬ辛さ、お察し致します」
「致し方あるまい」
忠勝は自邸の門を潜った。玄関の戸を開けた瞬間、2本の薙刀が忠勝の視界に飛び込んできた。一瞬、身構えたが、忠勝はすぐ体の力を抜いた。
唹久と乙女が、鉢巻き襷姿で薙刀を持って三和土(タタキ)に立っていたのだ。
忠勝は思わず後退り、戸に背をつけた。
「唹久に乙女。なんだその格好は」
よく見ると、後ろの方で、すみれが短い槍を持って立っている。唹久と乙女と同じく、すみれも鉢巻き襷姿だった。
「私たちは断じて退かぬぞ」
言って、乙女が薙刀の石突きで三和土を打った。
「何があっても、ここに居る。たとえ、どんな危険があろうと離れてはならない。それが家族だ。そうだろう、鍋」
最初のコメントを投稿しよう!