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「3日前は見事だったぞ、虎松」
部屋を出ていく際、忠勝が言った。
「お前のゆるぎない覚悟があの今川の旧臣の太刀筋を狂わせたのだ。松井某が深く斬れなかったのではない。お前が斬らせなかったのだ、虎松」
「忠勝殿」
「早く大人になれ、虎松」
忠勝が言った。
「こんなに何かを待ち遠しいと思った事は俺の生涯で初めてだ」
直虎とおひよは家康と忠勝を見送るため、部屋から出ていった。
「なぁ、虎松殿」
屋久松が言った。
「俺も頭を丸めて出家するぜ。どこまでもあんたについていくからな」
虎松は苦笑し、天井を見つめた。
「かぁ、つれねえな」
鼻下をこすり、屋久松が言う。
「まあいいや。好きにするさ。川辺の姓ももう捨てる。身も心も虎松殿の配下にしてもらうからな」
虎松の耳の奥では、別の声が聞こえていた。父の声だ。虎松は確信をもってそう思った。
赤くなれ。炎のように赤く、熱い武士になるのだ、虎松。
はい、父上。内心で応え、虎松は瞼を閉じた。
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