《47》

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 信長がすうっと眼を細め、遠い夜空を見た。小谷城の方角だった。 「それにしても、あの小さかった市がのう」 信長が独りごちる。 「この信長を敵に回してまで愛を貫くか。浅井長政とはそれほどの男、で、あるか」  そこで、信長が秀吉に眼を向けてきた。まだ居たのか、と信長に言われた気がした。 「行きます」 言って秀吉は逃げるように陣所を飛び出した。布陣している虎御前山の斜面を転がるように走る。信長が後ろから追ってきていて追いつかれたら殺される。半ば、本気でそう思った。 暗闇が濃かった。それでも道を失わず、秀吉は麓まで辿り着いた。  四方を篝に囲まれ、秀吉の直轄部隊3千500が兵糧を摂っている。 「どうなさいましたか、秀吉殿」 半兵衛が傍に来て心配そうな表情で秀吉の顔を覗きこんで言った。 「魔物に会ったような顔をしておられます」 「魔物に会ったのよ、半兵衛」 秀吉は言った。 「信長が小谷城城下を焼けと言ってきた」 「なんと」 「ありゃあもう悪鬼羅刹よ。自分の肉親を殺すことも厭いやしない」 「どうなさいますか?」 「命じられてやらんわけにいかんだろ。馬引け馬」  兵卒の手で秀吉の馬が引かれてきた。秀吉は馬に飛び乗った。 「ありったけの油をもってついてこい。今から小谷城城下を焼き討ちじゃ」
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