《47》

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 槍が地面に突きつけられた。 秀吉は転がり、これをかわした。磯野員昌。腹を空かせた熊のように恐ろしげな顔をしている。  秀吉は悲鳴をあげながら、地面を這いつくばった。  腹這いのまま進んだ。尻のすぐそばに槍の穂先があるような気がした。恐怖を振り払うように、秀吉は這い続けた。前方。茂みがあった。秀吉は頭から樹間に飛び込んだ。 秀吉はへたり込み、大樹の陰から戦場を見た。秀吉など相手にする価値がないと判断したのか、磯野員昌はこちらなど一切見ず、無心に織田軍の兵を突きまくっている。秀吉は足下に転がる拳ほどの大きさの石を拾い、馬の血を浴びた額を打った。額に裂傷ができる。派手に血を被った箇所に裂傷をつけておけば、刀傷に見える。傷を負ったので茂みの中に隠れていた。後でそんな言い訳ができる。  こんな所で死んでたまるか。天下を取るんじゃ。内心で叫んだ。  鉄砲隊が並列し、銃声が轟いた。兵卒が何人か倒れたが、磯野員昌は立っている。磯野員昌に鉄砲の弾は当たらなかったようだ。弾込めをしている鉄砲隊の半分があっという間に倒された。やはり鉄砲は野戦に向かない。  それにしても、戦前には、当然、斥候も放っているのだ。それでも磯野員昌の埋伏を看破することができなかった。 おそらく、地に穴を掘り、そこに草をまぶして隠れていたのだと思われる。  しかし、そんな兵隠しを造るのは大変な時間が掛かる。とすると、敵はかなり前からこの地を決戦の場所にすると、想定していたのかもしれない。  浅井家には海北綱親(カイホウツナチカ)という知恵者がいる。陽動奇襲。すべては海北綱親の見事さなのだろう。
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