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「信長様ぁ、信長様ぁ」
背後で秀吉の情けない声が聞こえたので忠勝は振り返った。二人の部下に両側から抱えられる格好で秀吉が立っていた。
「申し訳ございませぬ」
叫ぶや、秀吉は信長の前に進み出て地面に突っ伏した。
「開戦早々、足を負傷してしまいました。そのままではお味方の足手まといになると判断し、茂みの中で隠れておりました」
秀吉が顔を上げた。刀槍による傷と、そうでない傷の違いは、忠勝にはよくわかる。秀吉の左足にできている傷は刀槍によるものではない。おそらく、石か何かで皮を破り、身を抉った傷だ。大仰に流れる血はそこら辺の屍体のものを塗りつけたのだろう。
額にも同じような細工傷があった。
せこい。秀吉を見、忠勝は心底そう思った。
まごうことなく、卑怯者の所業だ。が、この猿面の小男がやると、このうえなく愛嬌のある行動に思えてしまう。
信長もそう思っているのか、低い声で笑っている。
「竹中半兵衛を大切にせよ、秀吉」
信長が言った。
「あれだけの猛攻を受けても、お前の隊はほとんど犠牲を出しておらぬ。実に見事な用兵ぶりであった」
「はは」
言って、秀吉が地面に額をこすりつけた。
信長が忠勝に眼を向けてきた。
「ちと、お前を家康に早く返しすぎたのう。もう少し長く我が陣に留まっていたとして、磯野員昌を討ち取れたか忠勝」
「どうでしょう」
忠勝は言った。
「人一人の強さなど、紙一重であるような気がいたします。朝倉軍の真柄直隆なども俺より遥かに強かったという気がしますし」
「驕らぬのう、お前は」
信長が頷きながら言った。
「花も実もある男よ、本多忠勝。お前のような男を配下に従えている。唯一、わしが家康を羨むところだ」
忠勝は足元から何かを感じた。秀吉が熱を帯びた眼で忠勝を見上げている。家康が咳払いをした。
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