《50》

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 忠勝の祖父、本多忠豊、父、忠髙、どちらもいくさ場で死んでいる。 忠豊は主君松平広忠(家康の父)の身代わりとなって死んだと聞いた。 忠髙の最期も話を聞くだけで、肌に粟が生じるほど壮絶なものだった。忠髙は僅かな手勢で当時は敵の城であった、安城城を急襲し、散々敵を討ち取った後、体に矢を受け戦死したのだ。 「いくさ人として生きてきた。やはり、最期はいくさ場で迎えたいものよのう」 忠真が噛みしめるように言った。 「最近は、どう死ぬかという話ばかり酒井忠次と二人でしてしまう」 「不吉ですよ、叔父上」 「わかっている。でも、やらずにはおれん。お前もわしらの歳になればわかるだろうよ」  忠真は43になっていた。酒井忠次は44だ。これに大久保忠世を加えた面々は広忠時代から三河松平家を土台で支えてきた男たちである。かつての名将たちも年齢を重ね、色々と思うところがあるのだろう。忠勝が彼らの年齢になるにはあと20年の歳月が必要だった。 「なぁ、忠勝。次のいくさはわしを先鋒に立てろ」 忠真が言った。本多隊の総大将は忠勝である。すべての決定は忠勝が下さなければならない。 「いつも黒疾風ばかりが目立っている。本多隊は黒疾風だけではない。わしや長政が育て上げた長槍隊もいるのだ。長槍隊を率いて最前線に出てみたい」 「黒疾風が最初に敵を乱す。これが本多隊の闘い方です」 忠勝は曖昧な返事でごまかした。先鋒などに立たせたら、忠真は真っ直ぐ死に向かって突っ込んでいってしまうような気がした。 「雄々しく、最期まで雄々しくありたいのう」 忠真が言った。星が2つ、同時に夜空を流れた。
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