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だが、未だこの状況を、心の底から信じられない自分がいる。
自分の娘がいきなり16歳になって現れたのだから、戸惑って当然なのだろうが、その面差しが、出会った頃の真莉絵にあまりに似ていて、時折、長い夢を見続けているのではないかと思ってしまう。
真莉絵そっくりの声で『サクちゃん』と呼ばれると、呆れるほどドキドキして、真莉絵に出会った15の歳に戻ってしまったような錯覚に陥る。
椎名さんの手前、パパと呼んで貰うわけにもいかず『サクちゃん』でいいよと言ってしまったが、いまさらながら後悔している。とにかくその声の破壊力にはどうにも抗えない。
寝返りを打ってこちらに向いた唇から吐息がこぼれ、そばに置いた手を掠めると、我慢できずその柔らかな頬に触れてしまった。
「・・・パパ」
彼女の口から溢れた寝言は、俺を呼ぶものではなかった。
触れてしまった指先が冷えて行くような切なさが、胸に灯った。
「・・・失恋より痛いな・・・」
小声で呟くと、その痛みも甘く溶けて愛しいものに変わる。触れた手は、頬の上で戸惑いながらも離せないのだ。
真莉絵・・・・・この子を産んでくれてありがとう。
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