第一章 桜が咲くにはまだ早い   〈2000年2月〉

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 案の定、ジャンジャンの前には10分遅れて着いたにもかかわらず、秀の姿はなかった・・・ふん、通常営業だな・・・もう少しゆっくり来るべきだった。  地下に続く階段を下りると、まだ開場前で、ドアの前に今夜の出演者の看板が置かれていた。 (ブラックぼっくす・・・これか。ふうん、GOD HAND の前座なのか。うん? 真莉絵・・・ソロなのか・・・?)  数組の出演者の中にグループではない女性の名前があり、気になった。それも前座扱いではない、ラストに書かれている。  中に入れないとわかり、階段を戻る。上りきらない数段手前で腰をおろし、通りに背をむけた。これなら目立たないだろう。  携帯を取り出し確認するが、秀からはなんもなし。  やっぱり、断ればよかったか。17時を過ぎ、あたりはすっかり暗くなっていた。夜の渋谷は嫌いだ。先月もこの顔のせいで絡まれてあわや警察を呼ばれるところだった。それも秀に待たされたせいだったな。  「なんか、ほんとにだりーわ・・・」思わず声が溢れた。  来月には中学を卒業するが、小学校から大学まで一貫の私立校に通っていると、メリハリがないというか卒業の節目も無いようなもんで、ずっと同じメンバーと過ごしているからどうにもダレるのだ。    時折入る仕事の都合で部活は免除されていたし、学校生活は、特に気合いを入れて頑張ったりしなくても大きな問題もなく、毎日がなんとなく過ぎていた。  まあ4月から高校に入れば、かなり外部からの入学者がいるから、すこしは新しい風が吹くかもしれないけど・・・それはそれで面倒だ。
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