第一章 桜が咲くにはまだ早い   〈2000年2月〉

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 いわゆるスター扱いされる俳優夫婦を両親に持つ俺だが、周りもそれなりに有名どころの子が多くて、そんなことを気にするやつもいなかったし、もちろんいじめられたりもしない。まあ、小学校の頃は多少あったかな・・・。当然だがすぐに蹴散らした。主に秀が派手にやったと言うべきか・・・。   その秀だって、全国規模の外食チェーンのおぼっちゃまだ。年の離れた三男で末っ子。思い切り甘やかされているわけで、将来も家は継がなくていいらしい。お気楽の極みのような奴は、夜の街も自由に徘徊している。  俺はと言えば、俳優なんて見た目は派手な仕事をやってるが、親父と事務所にがっちり締められて、品行方正な優等生でいなくちゃならない。今夜だって服装には気をつかったんだ。  ウチの学校は制服はないけど、当然一度家に帰って着替えてきた。身長は175ある。この恰好なら大学生ぐらいに見えるだろう。夜なのにグラサンはおかしいが仕方がない。さすがにこれでマスクまでしたら怪しいやつにしか見えないのでやめた。  遊んでも構わないが、補導だけはされるなって、事務所から念を押されてる。今、出演中のドラマにも当然迷惑がかかるわけで、それは俺だってプロだから分かっている。  通りに背を向けて、ホッとするとか不自由きわまりないな。  秀に電話してみようかと、携帯を取り出したところで、後ろから、誰かが階段を下りてくる気配がした。
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