第一章 桜が咲くにはまだ早い   〈2000年2月〉

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「でも、その顔だし嫌でも場面かっさらうだろ」    確かに、出番は少ないがキーマンで見せ場はある。 「顔の話はすんなって言ってるだろ!」 「はい、はい、綺麗な顔なのに、それがコンプレックスってもったいねえな」  女より綺麗とか言われても嬉しいわけない。子供の頃から顔目当てで告白してくる女ばっかりでうざいったらないんだ。俺はアクセサリーか?最近はさらにひどくなった。 「それよりなんだよ」 「あ、そうだった!この前言ったろ、いとこのライブ今夜なんだ。渋谷のジャンジャン行くだろ?」 「ああ、うーん、取材入ってたかな」 「何時に終わるんだ?明日は休みだし行こうぜ」  メールの着信に気づき携帯を取り出す。 「液晶、カラーじゃん!」 「ああ。買い換えた、色、微妙だけどね」  マネージャーからのメールで、今夜の取材が明日に変更されたとあった。了解とだけ返信する。 「暇になったな、行くだろ?」  上からのぞき込んでいた秀にもバレたわけで、断る理由がなくなった。   あんまり素人バンドには興味ねーけど、巧さんだしな。暇になったし付き合ってやるか。 「いいよ」  だりーなーと思いながら返事した俺は、今夜、運命の出会いが待ってるなんて、露ほども思っていなかった。
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