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晴は夢の世界を揺蕩っていた。
大学近くの教会の前にいる2人の姿を浮いている身体が上から見ていた。
「隆二に呼ばれて来たけど、晴がなんでここに?晴も呼ばれたのか?」
「いや、僕が隆二に頼んだんだ……」
(久しぶりだのこの夢。続きはこうだ……)
「お前が?」
「あ、うん」
光輝の前でもじもじとしている姿を、浮いている身体が上から見ていた。社会人になってもどこか初々しく緊張した面持ちの晴がそこにいる。
「どうしたんだ?珍しいな晴から呼び出しなんて」
「うん、ごめんね」
「構わない。で、それで?」
「ぼ、僕と付き合って下さい」
晴は光輝の前で90度に頭を下げて右手を差し出した。時間にして1分、晴にとっては永遠かと思う時間が空くと、光輝が手を握り返してくれた。咄嗟に顔を上げると、微笑む光輝がいた。
「これって冗談?」
「晴が言うのか?付き合うんだろ俺たち」
「光輝……」
振られて気持ち悪い顔をされるのを何度もシュミレーションして嫌われる覚悟でここに来ていた。こんな展開になるのは考えててもいない晴は呆けた顔をしている。よくよく考えればあの隆二の親友をしているくらいだから、ゲイに偏見があるはずがなかった。
「どうした?」
「ホントに僕でいいの?」
「もちろん、こんな面倒な奴で良いならな」
「嘘みたい……」
「こんな事で嘘を言うほど酷い奴じゃないつもりだぞ」
23才の若い2人がそこにいた。初めて出来た彼氏とのこれからを思って幸せそうな晴の顔があった。
それでも、その後2人の関係は決して順風満帆とは行かなかった。キスをしても身体を重ねても、光輝の自由な性格は変わらなかった。晴はいつも我慢して待っていた。気持ちは晴の一方通行ばかり。同じだけの思いが返ってくる事はまずなかった。
場面は急に暗くなり、隆二が開いたばかりのお店『ジョーべ』でやけ酒を飲む晴の姿があった。こんな姿は初めてではなかった。
「またケンカか?」
「違う!」
「じゃあどうした?」
晴はグラスの縁をいじりながら俯く。
「光輝には今、仕事が大切なんだよ」
「あ、アイツまた約束すっぽかしたのか」
「……」
「まぁ、諦めるんだな。光輝のカメラ狂いは子どもの頃からだからな」
「分かってるよ……お代わり」
光輝は今、昔からの夢だったカメラマンになるためにアシスタントの仕事をしていた。撮影が伸びればそちらが優先される。その度に晴は『ジョーベ』で飲んでは潰れる事を繰り返していた。
(あの頃は良く我慢していたな~)
浮遊して夢の中の自分の姿を覗いている晴はいつもの思いを浮かべていた。何度この夢を見ても同じ思いになる。
24才の冬、ある決意を持った晴はどうにかやり繰りして光輝と休みを合わせてスペインへと旅に出かけた。
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