第2章

9/11
前へ
/66ページ
次へ
 10分程待たせて2階に案内した晴は、睦月からトレンチコートとジャケットを預かるとハンガーに掛けて振り帰った。ジレを来た睦月の姿は32才には見えない色気を纏っていて均整の取れた身体が際立っていた。 「す、直ぐ用意するからそこに座って待ってて」  晴は慌ててキッチンに向かった。 「何か手伝おうか?」 「睦月、料理出来るの?」 「いや、全然」  冷蔵庫からあらかじめ用意していたエビグラタンをオーブンに入れてサラダの用意を始めた晴に睦月が後ろから覗き込んで来た。 「それじゃ、ダメじゃん」 「チーズを切るくらいは出来るぞ」 「それ、料理って言わないから。そんなので食事はどうしてるの?」  変なことで胸を張る睦月が可愛かったが、純粋に食事の事が心配になった。 「ほとんど外食だ、それかコンビニに世話になってる」 「不健康だね~」 「男はそんなもんだろ」  肩をすくめる姿も様になっていた。焼き上がったエビグラタンとサラダを部屋にあるローテーブルに運ぶと2人の初めての食事の時間が始まった。 晴は睦月がエビグラタンを口に運ぶのを緊張して見守っていた。 (人に食べさせるのにこんなに緊張するのは久しぶりかもしれない) 「旨いな、俺好みの味だ」 「ホントに?良かった~」  その言葉に安心した晴は自分も食べはじめた。 (うん、いつもの味だ。睦月の味覚に合って良かった~)  食べる晴の頬が緩んだ。無言であっという間に食べてしまう睦月の綺麗な食べっぷりの良さは気持ちの良いモノだった。 「早いね~」 「旨いからな」 「ケーキ持ってこようか?」 「いや、お前が食ってからでいい」  睦月の気遣いはいつも嬉しい。急いで食べ終えた晴はケーキを用意するために立ち上がった。すると睦月も立ち上がり食べ終えた食器たちを運ぶのを手伝ってくれる。そんな睦月が本当に晴の心を擽ったい思いにさせる。 「飲み物はコーヒーで良い?紅茶もあるけど?」 「そうだな、コーヒーも良いけど今日はケーキをじっくり味わいたいから紅茶をくれるか?」 「了解。砂糖とかはどうする?」 「なしで頼む」 「分かった、じゃ、お湯を沸かすね。座って待ってて」  水道水を勢いよく蛇口を捻って出すと、やかんに水を張り沸かし始め、カップとポットの用意を始めた。お湯が沸き始めるといったん火からやかんを下ろしてカップとポットを先に温めた。そして再び火に戻すと完全に沸騰するまで待って、お湯をポットに注ぐ。茶葉が思い切りジャンピングしないと美味しい紅茶にならない。晴にとって楽しい時間だった。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加