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晴久が言うと、まるで違う言葉に聞こえた。たとえば「草の芽」のように。あるいは、遠い国の誰かの名前みたいに。
「夜明けっていう意味」
晴久は「いいね」と目を細めて笑った。そのときの声の深さを、今でも覚えている。ひどくはりつめていて、真摯な声。
私は梅酒のロックを干した。グラスから水がしたたって、木目の机に水溜まりをつくっていた。
***
高台から見た夜明けは、びっくりするほど早く訪れて、雀の朝のさえずりを不思議に思った。晴久と階段を登った日。ふたりきりなのに、本当の意味で「ふたり」になることはできなかった。
曇り空から明け方、雨が降った。体にあたる雨は心地よかった。ひと晩中、寒くて凍えていたのに。
自転車にふたり乗りをして、すごいスピードで坂を駆けた。コンビニエンス・ストアに寄った。駐車場に停まる、二台のトラック。どんどん重なってゆく雀の声。空は東から少しずつ、夜の名残を脱ぎ捨てていった。今はもう、記憶にも遠いしののめ。
ーー大学を辞めようと思うんだ。
晴れた日の涼しい日に、彼は言った。
二回生の秋。
辞めてどうするの、と聞いたら、困ったようにほほ笑んだ。信じられないことだけど、その表情ひとつで、私は何も言えなくなってしまったのだ。
季節は六月になり、七月に移り変わった。
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