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 ずっと集団でいるのが苦手で、ひとりで行動したいのだけど、ふっとしたとき誰かと話したい。そんな心持ちを互いに発見してからは、なんとなく一緒にいることが多くなった。 「これから、どこか行かない?」  講義が終わって駅にむかう途中、私は言った。四限目が終わった後の時間帯で、学生があふれていた。この塊に含まれたまま、駅のホームに閉じ込められるのが嫌だったのかもしれない。 「どこへ?」と聞く晴久に「どこでもいい」と答える。自転車をひきながら、晴久は少し黙った後、 「じゃあ、どこか行こうか」  と言った。あの、耳に残ってしまう声で。  夕方の光が、急に近く感じられた。親しげな空気は歩いていくに従って濃密になった。東の空から、夜が追ってきている。  少し肌寒く感じる風のなか、ふたりで歩いた。途中の自動販売機で、晴久はミルクティーを買ってくれた。アルミの缶は初め、持てないくらいに熱かった。 「ここを登ろう」  晴久は、自転車をとめてそう言った。ゆるやかな丘にそって階段がある。ずいぶん登って、頂上にたどりついた。そこには、小さなベンチが置いてあった。  フェンスのむこうに、夜の街並みが見える。遠くの方には灰色のビルがあって、赤いライトがぽつぽつ点滅していた。アパートや近くの家々では窓から明かりがもれていて、そこに人がいることを知らせていた。     
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