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ずいぶん遠くまで歩いてきた気がした。今までずっとふたりで旅をしていて、目的地にやってきたような。目的地についたので、行く場所を失った旅人たちのように。
時計を見ると、七時を過ぎていた。星も月もない曇り空は、街の光を反射してへんに明るい。私は、やけに空っぽな気持ちで立ちすくんだ。手前にある信号機を眺めながら。信号は、青色から黄色に変わる。そして赤へ。
空腹を我慢して、ずっとそうしていたら、少しずつ東の空が白み始めた。曇り空のままで。
ケータイが繋がらないとき、居場所は屋上と決まっていた。電源を切っているのだ。それくらい、晴久は高いところを大切にしていた。
屋上に行くと、夕日の沈むところだった。雲間へ沈んでいく太陽。ばら色の空。あふれる夕映えの光。雲は渦を巻き、西の果てへと長い筋を伸ばす。晴久と私は並んで、同じように太陽を見つめていた。
日が沈むと、空はめまぐるしく変化した。東の方では、白い月が沈んだ太陽に照らされ、徐々に存在感を強めていく。群青色の広がり。飛行機雲が空を渡ってゆく。何も話さないまま、ぐずぐずと月ばかり眺めた。
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