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 途中で、警備員の人が来て、懐中電灯で下から上まで照らし始め、びっくりして逃げた。光が体をかすって、見つかった! と思ったけれど、どうやら見えていなかったらしく、不審者を探す光はゆらゆらと遠ざかった。人影を見送ったあと、私も晴久も息をつめて笑った。まるで、共犯者のような気持ちで。  どちらかといえば、桜は夜桜が好きだ、と晴久は言った。「どうして」と聞いたら「夜の方が神秘的に見える」と言い、「今度見に行こう」と話は続いた。    ちょうど桜が開花する頃だった。大学は新入生が加わったせいか、いつもより人口が多く感じられた。期待と不安の入り混じった空気。足元はふわふわと頼りなくて、疲れて眠くなってしまうような。 「いいけど、いつ行こう」  隅のテーブルで、私たちは話していた。次に履修する講義を決めるため、時間割表をばらばらと広げながら。 「いつでもいいよ。行きたくなったら連絡して」  お花見をしたことはなかった。今まで一度も。  ある日の夕方、晴久に電話した。着る服も散々迷った挙句に決めて、水筒と小銭入れもこの日のために買って、準備は万端に整っていた。  3コールで晴久は出た。ひどいしゃがれ声で。  どうしたの、と聞く前に「ごめん、風邪ひいた」と彼は言った。今日は無理だ、ということだけが分かった。  また連絡して、と言われたけれど、まだ治ってないかな、と思いあぐねているうちに一週間が過ぎた。大学にも来ていないようなので、なおさら連絡しづらく、そうしているうちに、桜は散ってしまった。     
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