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霞む両目にもグッと力を込め、メルは高度を維持して飛び続ける。
夜の中に光を投げかける灯火も、少しずつ、だが確実に近付いてくる。
やがて、体温を奪う風雨に抗って飛び続けたメルとネウィルは、波頭の砕ける石の堤防を眼下に飛び越えて、目指す灯火の真上にたどり着いた。
やっとのことで羽ばたきながら、上空に静止したメルは、長い首をだらりと下げるようにして、地上へと視線を向けた。
ハッキリとは見えないが、真下は円形の広場のようだ。
陽はとうに暮れ、さらに冷たい霧雨が舞っている。
その黒みがかった黒灰色の石畳の空間に、人の姿は皆無だ。
「これが、記念灯火……?」
円形広場の中央に、巨大な人物像が立っている。
高々と掲げた右手では、透明な球体が温かな光を煌々と放つ。
ネウィルの言う『記念灯火』というのは、物見櫓よりもずっと高い、この立像のことだろう。
だが、体もすっかり冷え切ったメルの思考は、ここが限界だ。
重い龍の体を空中に支えるだけの力も、翼には入らない。
ずるずると、空中をずり落ちるようにして、メルは十数時間ぶりに地上へと降り立った。
瞬時に、メルの意志とは関係なく、彼女の体から龍気が蒸発した。
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