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そしてメルの右手を黒檀の両手で優しく取ると、彼女の手の甲にそっと唇を寄せた。
「ひゃっ!?」
瞬時にメルの脳天が、ぼんと沸騰した。
慣れないことで、つい変な声を上げてしまったメル。
だが、エルマンの所作は、貴人の作法としては何も間違っていない。
それどころか、その洗練された流麗さは、まるで生まれながらの王侯貴族のようだ。
自分がいかに野暮ったいか、痛感させられた思いのメルだった。
あせあせと右手を引っ込めたメルの側で、ネウィルの声が冷淡に響いた。
「気は済んだか? エルマン。済んだのなら、報告に帰れ。銀龍女公がお待ちかねだろう」
ネウィルの突き放したような言葉を聞き、エルマンが声を上げて明朗に笑った。
漆黒の笑顔に輝く白い歯が、とてもまぶしい。
「おやおや。『待て』と言ったり『帰れ』と言ったり、全くお忙しい方だ、ローサイト卿は。ま、御用も済んだし、僕は引き揚げますか」
皮肉たっぷりに肩をすくめ、大きな帽子を手にしたエルマンが、ネウィルを挑発するように流し見た。
対する腕組の騎士の表情は、淡々としたまま変化を見せない。
さすがの冷静さだ。
そのエルマンが、孔雀色も鮮やかな羽飾りが揺れる帽子で片目を隠し、ネウィルにどこか挑戦的な言葉を投げつける。
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