第三章 “銀龍女公” 女公爵アルジェンテーヌ

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 疲労の極致にあるメルには、霊質(エクトプラズム)を龍の姿に固着しておくだけの気力が、もう残っていない。  白い胸甲を着けた旅姿のメルは、濡れた石の上へ崩れるように、がくりと膝を付いた。  同時に、メルの震える背中に厚手の布がふわりと掛けられた。  ハッとわずかに顔を上げてみると、騎士ネウィルがメルの側に片膝を付いている。  メルの肩から背中までを覆うのは、ネウィルが着込んでいたマントのようだ。  彼の体温をそのまま保っているのか、濃緑のマントの乾いた内側は、ほっこりとした温もりが一杯に溢れている。  マントの襟首をギュッと掴み、メルはマントの内側に震える体を擦り付ける。  ……ああ、あったかい。 「よくここまで頑張ってくれた。無理を強いて済まない、メルローチェ」  自責の念に満ち満ちた口調で言いながら、ネウィルがメルの手を取った。  冷え切った彼女の指先には、籠手をはめた騎士の掌ですら、温かく感じられる。  そんな騎士の手をつい堅く握って、メルは笑顔でうなずいて見せた。 「えと、うん。大丈夫。わたしだって、龍なんだもん。ちょっと休憩すれば大丈夫」  と、強がってはみたものの、やはり体力の消耗は激しい。  正直、歩くのもちょっぴり辛くて、早く暖かい部屋で休みたい、というのが本音ではある。     
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