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「じゃあ、あのエルマンってひとが言ってた招待状って、これのこと?」
メルが聞くと、ネウィルが深い吐息をついた。
諦めと諧謔と、とにかく彼にしては珍しく、重苦しい息だ。
憂鬱そうに首を振りながら、ネウィルが短く付け加える。
「実質は、体のいい召喚状だがな」
「召喚状って、呼び出しの手紙?」
重ねて問うたメルに、ネウィルがくるりと背中を向けた。
肩越しの視線を彼女に注ぎつつ、無感情に告げる。
「俺は行く所ができた。明日の夕方に全部話す。それまで待っていろ、メルローチェ」
「え? あ、ちょっ!? ネウィルっ!」
慌てて呼び止めたメルだったが、ネウィルの足は止まらない。
乾いた靴音を玄関広間に響き渡らせながら、騎士ネウィルもこの館を立ち去った。
「もうっ……」
ひっそりとした館の玄関広間に、たった独り置き去られたメル。
頬を膨れさせ、きゅっと唇を衝き出す彼女だが、もう文句をぶつける相手もいない。
メルの憤りは諦めに変わり、それもすぐに言いようのない寂しさへと移ろいゆく。
……せっかくうちに来てくれたのだから、もう何週間も会っていないし、もっとゆっくりいろんなお話をしたかったのに。
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