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「ローサイト卿は? どちらに行かれたのかしら?」
「えっ? お母さま、ネウィルに会ったの?」
メルが驚きの声を上げると、母親はこともなげにうなずいた。
「ええ。お茶の時間の頃かしら。ローサイト卿がいらしたの。わたくし、ちょっと急ぎの用ができたものだから、ローサイト卿にお留守番をお願いしてしまったのよ」
「お母さま……」
いくら自分の甥とはいえ、ネウィルは諸国に名立たる騎士だ。
そんな彼を捕まえて留守番を言いつけるとは、さすがとしか言いようがない。
呆れ半ば、感心半分の視線を注ぎつつ、メルは聞いてみた。
「お母さまの急ぎの用って?」
「広場にメロン売りが来てたのよー。ほら」
母親は弾けるばかりの無邪気な笑顔で、メルに袋の口を開いて見せた。
中には、浅葱色の新鮮なメロンがごろごろと入っている。冷水に浸されていたのだろうか。
灯火を受けた水滴が、宝石飾りのように煌めく。
ほのかに香る甘い匂いに、呆れるメルの唇もついほころんでしまう。
母親が、張り切った胸を得意げに反らせた。
「ほらほら、この神殿集落は城壁都市だから、畑が少ないでしょ? 外からの新鮮な果物とか、貴重品ですもの。特に南の田園から売りに来るメロンは、本当においしいのよ」
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