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そう少女に語った女性は、目の覚めるようなマリンブルーの法衣の上に、漆黒の肩掛けを羽織っている。
肩掛けの合わせ目を胸元で留めているのは、金と翡翠で作られた円いブローチ。
海原と岩礁、それに無数の魚をあしらった聖印だ。
さらに細く痩せた首には、金剛石の聖印が神々しく煌めく。
この海の聖印は、大海の神に仕える聖職者の象徴。
そして漆黒の肩掛けは、最高位の聖職者“法王”の身分を象徴する。
さらに金剛石の聖印こそが、全ての神々を祀るこの中央万神殿の最高責任者の地位を示すものだ。
そんな女法王が、少女を見つめたまま言葉を続ける。
「この粘土板も含め、かなりの点数の神代レテ文字の史料が、手つかずのまま図書館に死蔵されています。いい加減に翻訳と整理をして、書かれた情報を活かしてやらなくては。そこで、あなたをお呼びしました」
少女は、この海の神の女法王が差し出す粘土板と、金剛石の聖印をちらちら見比べながら、おずおずと尋ねる。
「えと、どういうことですか? “首座総裁(プライメット・イプシシマ)”さま」
「人類発生以前の超古代文字、“神代レテ文字”を正しく翻訳できるひとは、この中央万神殿でも、ほんの数人。さらにその中でも、あなたの翻訳は群を抜いて良い、と聞いています」
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