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「いいですか? メルローチェ。明日の夕方、ローサイト卿はきっととても困って、この家にいらっしゃるでしょう。あなたはできるだけ、ローサイト卿の力になっておあげなさい」
もちろん、いつだってネウィルの力になりたいと思っているメルだ。
大きくうなずく彼女だったが、ふと不思議に思う。
「どうしてそんなことが分かるの? お母さま」
まじまじと見つめる娘に、母テオファナは自信たっぷりの笑顔を浮かべて見せる。
「女の勘、ですよ」
言い切った母の顔は、可愛い弟を気遣う姉のようだ。
確かに、今は名立たる“緑衣の騎士”ネウィルも、その昔の少年時代は、母テオファナが何かと世話を焼いたらしい。
何となく、母親が羨ましく思えたメルだった。
そんなメルが母親にさらに問おうとした時、玄関の扉が開き、はっきり通る太い声が響いた。
「今帰ったぞ」
続けて姿を現わしたのは、質素だが厚みのある白い法衣を着込んだ壮年の男。
灰銀の髪も清潔に整えていて、高い鼻の下で、ハンドル髭がぴんと天を指している。
「あ、お父さま。お帰りなさい」
このメルの父マルクセスは、中央万神殿の書記を束ねる書記総長の地位にある。
家庭では父娘の二人だが、仕事場では上司と部下だ。
妻である母テオファナも、にっこり笑顔で夫を出迎える。
「あら、お帰りなさい、あなた。今日もお勤め、お疲れさまでした」
「あ、ああ」
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