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三
貴重な粘土板を作業台から取り落としたメルは、思わずぎゅっと目を瞑った。
粘土板もろとも、絶望の淵に突き落とされた思いで、破砕音という“死の宣告”を待つばかりの彼女だった。
が、いつまで経っても粘土板が砕ける音は聞こえてはこない。
恐る恐る目を開いたメルに、若い女性の穏やかで優しい声が掛けられた。
「大丈夫? メル」
振り向くと、収蔵室の扉の前に一人の女性が立っている。
メルと同じエメラルドグリーンの可憐な瞳と、肩にかかるさらさらのプラチナブロンドの髪。
緑の縁取りがある白い法衣に、ほっそりとした体を包んでいる。
メルよりも、少し年上だろうか。
女性は繊細な右手で茶器を乗せたトレイを支え、左手がメルの足元あたりの床を指差している。
そのしなやかな指先と、たおやかな首から下げた銀の聖印が、爽やかな新緑にも似た光を放つ。
「粘土板は割れてない?」
女性の気遣わしげな声に、メルは慌てて腰を浮かせた。
「え、えと」
床に視線を這わせてみると、作業台のすぐ脇に、あの古代の粘土板がそのままの形で落ちている。
「ああ、よかったぁ……」
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