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膝に震えがくるほどの深い安堵を覚えつつ、メルは無傷の粘土板をそっと拾い上げた。
その粘土板の下にあったのは、厚手の敷物のような物体。
もふっとして、ふわふわとした深緑の羊毛か絨毯のように見える。
が、よくよく目を凝らせると、それは乾きかけた苔の塊、しかも何やらもぞもぞと蠢いている。
これがクッションになって、粘土板を破損から守ってくれたようだ。
大きな吐息とともに、メルは粘土板をそっと胸に抱いた。
そして戸口の女性と苔の塊に、ありったけの感謝を込めた視線を、交互に注ぐ。
「あーん、ありがとう、クラウさんっ! それに、森と湖水の聖霊さんも!」
メルの感謝を受けて、苔の塊として顕現した聖霊が、うねうねと踊り出す。
その様子はどこか無邪気で、誇らしげだ。
そんな聖霊の姿は輪郭からだんだんと薄れてゆき、やがて踊りながら消えていった。
聖霊を見送ったメルは、粘土板を抱いたまま、ぺたんと椅子を落とした。
そして目を伏せて、はあ、と大きなため息をつく。
……ああ、本当に助かった。何か今日も、うまくいかない。
ティーセットを持った若い女性、クラウがメルの側に歩み寄ってきた。
使い込まれた作業台の飴色の天板に茶器とポットを置きつつ、彼女はメルに微笑みかける。
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