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「良かったわ。お茶の差し入れに来てみて。ちょうど”聖霊(スピリタス)”との通交の修練が終わったところで、聖霊がついてきちゃったけれど。それも幸いだったかしら」
このクラウは、森と湖水の神に仕える女神官だ。
メルとは親戚筋にあたり、幼い頃から姉と慕っている。
中央万神殿の中にある至聖所での祭儀の執行、神の遣い”聖霊”との通交の修練などが、彼女の日課だ。
そういう仕事の合間合間に、趣味を兼ねた呈茶に充ててくれるクラウだった。
そんな神官クラウが、陶製ポットを手に取った。
優美な曲線に、淡い虹色の釉薬が妖しく美しい。
彼女が卵の殻のように薄手の繊細なカップに、ポットのお茶を注ぎ込む。
ハーブの清涼な香りが、どことなく埃っぽい収蔵室の中に広がってゆく。
「お茶でも飲んで、一休みしましょう、メル。かなり疲れているみたい」
クラウの静かな囁きが、メルの半ば呆然の意識を少しずつ現実に手繰り寄せる。
「あ、えと、うん。ありがとう、クラウさん」
ようやく生気を取り戻したメルは、堅く抱いたままだった粘土板を慎重に作業台へ戻した。
そして目の前に置かれた純白のティーカップをそっと手に取り、つるつるの縁に唇を寄せる。
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