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まだ充分熱いハーブティーを口に含むと、ハーブの清々しい香り、それに茶葉の柔らかな渋みが舌の上に広がってゆく。
ぼやけた頭から、霧がすっきりと晴れてゆくようだ。
メルはふう、と大きく息をついた。
堅くこわばった肩、それにいろいろ詰まり過ぎて、はち切れそうな頭から意識を逃がす。
ぼんやり感が、全身を心地よく包む。
そんな放心状態のメルに、作業台に寄りかかったクラウが気遣わしげな視線を注ぐ。
「メルは今、神代レテ語の翻訳中なのでしょう? 難しいお役目、お疲れさま」
クラウのエメラルドの瞳に、称賛の光が宿った。
「この中央万神殿(ラ・パンテオン)でも、神代レテ語を正確に訳せるのは、メルを含めてもほんの数人だもの。さすが、書記総長様の娘ね」
「え、えと、それほどでも、ないけど」
クラウの褒め言葉がくすぐったくて、メルはカップを大きく傾けて熱い顔を隠した。
ちょっぴり恥ずかしい一方で、この中央神殿の書記として確かな仕事に従事している、そんな自負が胸の内に広がってゆく。
少しばかり膨らんだ自慢げなメルの気持ちを知ってか知らずか、クラウが厭味なくくすっと笑って付け加えた。
「でも、メルはちょっとあわてんぼさんだから、気を付けてね。疲れている時は、特に、ね」
「はぁい」
痛いところを衝かれたメルは、小さく首をすくめた。
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