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……確かにこのところ大きな失敗こそないが、小さなミスは時々あったりする。
粘土板の破損未遂も、昨日今日の連続だ。
カップを手にしたまま、メルはしおらしくうつむいた。
そんなメルに、クラウが控えめながら心配そうに聞く。
「メルったら、今日は特に疲れているみたいね。何か悩み事でもある?」
メルは顔を上げた。
多少のためらいはあるが、やはり気になって仕方がない。
彼女は優しい笑みを絶やさないクラウに、思い切って尋ねてみた。
「ねえ、クラウさん。“銀龍女公”って、どんなひと? クラウさんは知ってる?」
「銀龍、女公?」
聞き返したクラウの表情が変化した。
整った眉を不安そうに寄せ、穏やかな瞳に暗い陰が薄く広がってゆく。
清楚な口元に滑らかな片手を当て、佇まいはどこか所在なさげに映る。
これはまた父親とも母親とも異なる反応だ。
幼い頃からクラウとの付き合いがあるメルだが、こんな心細げな彼女はほとんど記憶にない。
メルはにわかに不安を覚えた。
そんなクラウが視線をちらちらと虚空にさまよわせ、メルに重ねて聞いてきた。
「メルって、銀龍女公に呼ばれたの?」
「あ、わたしじゃなくて、ネウィルに招待状が来て」
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